分離閉包

本記事では分離閉包の定義、基本的な性質について解説します。

定義

定義は以下の通りです。

\(L/K\)を代数拡大とする。このとき\[L_s:=\{a\in L\mid aはK上分離的\}\]は体となり、これを\(L\)における\(K\)の分離閉包と呼ぶ。
特に\(L\)として\(K\)の代数閉包\(\overline K\)を取った、\(\overline K_s\)を単に\(K\)の分離閉包と呼ぶ。

まずは\(L_s\)が体となることをチェックしておきましょう。

「分離的な元で生成された拡大体は分離拡大となる」という事実を用います。詳しくは以下の記事もご覧ください。

\(L_s\)が\(L\)の乗法単位元\(\text{1}\)を含むことは明らか。
\(a,b\in L_s\)とする。このとき\(K(a,b)\)は\(K\)の分離拡大体となる。よって\(a-b,ab\in K(a,b)\)は\(K\)上分離的となり、\[a-b,ab\in L_s\]となる。従って\(L_s\)は\(L\)の部分環となる。さらに、\(0\neq a\in L_s\)とすると同様にして\[a^{-1}\in L_s\]が成立するので、\(L_s\)は\(L\)の部分体となる。

定義から\(L_s\)は\(K\)を含むので、\(L/L_s/K\)という拡大の列が得られました。

\(L_s\)の定義から明らかに\(L_s/K\)は分離拡大です。では一方で\(L/L_s\)の方はどうかというのが気になります。

性質1

実は次のような性質が成り立ちます。

\(L/K\)を代数拡大、\(L_s\)を\(L\)における\(K\)の分離閉包とする。
このとき拡大\(L/L_s\)は純非分離拡大である。

つまりこちらは逆に目いっぱい非分離的な拡大となっているということです。分離閉包という言葉のニュアンスが分かってきたのではないでしょうか。純非分離拡大については以下の記事で詳しく解説しています。

(証明)\(a\in L\)とする。純非分離拡大の定義から、\(a\)が\(L_s\)上分離的なら\(a\in L_s\)が成立することを示せばよい。
\(a\)が\(L_s\)上分離的なら、拡大\(L_s(a)/L_s\)は分離拡大となる。また、\(L_s/K\)も分離拡大なので、分離拡大の性質から\(L_s(a)/K\)は分離拡大となる。よって特に\(a\)は\(K\)上分離的であり、\(a\in L_s\)となる。

(証明終)

性質2

実は拡大次数についても面白い性質が成り立ちます。

\(L/K\)を有限次拡大とする。このとき、\[[L_s:K]=[L:K]_s\]が成立する。
ここで\([L:K]_s:=|\text{Hom}_K(L,\overline K)|\)は分離次数である。

分離次数についてはこちらの記事で解説しています。

(証明)\(K\)の標数が\(0\)のとき、\(L/K\)は自動的に分離拡大となり\(L_s=L\)となる。また分離拡大の性質から\([L:K]=[L:K]_s\)が成立するので、これらをまとめて\[[L_s:K]=[L:K]=[L:K]_s\]が成立する。

以下\(K\)は標数\(p>0\)とする。\(L_s/K\)は分離拡大なので、\[[L_s:K]=|\text{Hom}_K(L_s,\overline K)|\]が成立する。(こちらを参照のこと)
代数閉包の性質から、\(\text{Hom}_K(L_s,\overline K)\)の元は\(\text{Hom}_K(L,\overline K)\)の元に拡張できる。従って制限写像\[\text{Hom}_K(L,\overline K)\to\text{Hom}_K(L_s,\overline K);f\mapsto f|_{L_s}\]は全射である。これが単射でもあることを示そう。\(f,g\in\text{Hom}_K(L,\overline K)\)が\[f|_{L_s}=g|_{L_s}\]を満たしたとする。\(a\in L\)を任意に取ると、\(L/L_s\)が純非分離拡大であることより、ある\(n\geq0\)が存在し、\[a^{p^n}\in L_s\]となる。仮定より\(f(a^{p^n})=g(a^{p^n})\)が成立する。よって\begin{align}0&=f(a^{p^n})-g(a^{p^n})\\[5pt]&=f(a)^{p^n}-g(a)^{p^n}\\[5pt]&=(f(a)-g(a))^{p^n}\end{align}となり、\[f(a)=g(a)\]が従う。いま\(a\in L\)は任意に取っていたので\(f=g\)となり、制限写像が単射でもあることが示された。

以上より\[[L_s:K]=|\text{Hom}_K(L_s,\overline K)|=|\text{Hom}_K(L,\overline K)|=[L:K]_s\]が成立する。

(証明終)

本サイトでは\(|\text{Hom}_K(L,\overline K)|\)で分離次数を定義していますが、人によっては\([L_s:K]\)のことを分離次数として定義している場合があります。この等式により、これらの定義が等価であることが保証されるので、文脈や説明の都合に合わせて選択されているのでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました