本記事では正規拡大の特徴付けについて解説します。同値な言い換えをしっかりと把握して、場合によって使い分けられるようにしておきましょう!
定義
正規拡大の定義については以下の記事で解説しています。
また、正規拡大を考える上では共役元の概念が不可欠なので、確認の為にもこちらの記事もご覧ください。
主張1
まずは一般の代数拡大に関する特徴づけです。
\(L/K\)を代数拡大とし、\(\overline K\)を\(K\)の代数閉包とする。このとき以下は同値。\begin{align}&(1)L/Kは正規拡大\\[5pt]&(2)\phi\in \text{Hom}_K(L,\overline K)\Rightarrow \phi(L)\subset L\end{align}
上の共役元の記事の共役元の特徴づけを使って証明します。
(証明)
\((1)\Rightarrow(2)\)\(a\in L\)とする。このとき\(\phi(a)\in \overline K\)は\(a\)と\(K\)上共役となる。いま\(L/K\)は正規拡大なので、共役元を全て含み\[\phi(a)\in L\]となる。いま\(a\)は任意だったので、\(\phi(L)\subset L\)が従う。
\((1)\Leftarrow(2)\)\(a\in L\)とし、\(b\in \overline K\)を\(a\)の\(K\)上の共役元とする。\(b\)が\(L\)の元であることを示せばよい。\(a\)と\(b\)が\(K\)上共役であることから、ある\(\phi\in \text{Hom}_K(L,\overline K)\)が存在し、\[\phi(a)=b\]となる。よって\((2)\)より\[b\in L\]が成立する。よって\(L/K\)は正規拡大である。
(証明終)
系
よく用いられるのは次の形です。
\(L/M/K\) を代数拡大の列、\(M/K\)を正規拡大とすると\[\phi\in\mathrm{Hom}_K(M,L)\Rightarrow\phi(M)\subset M\]となる。
(証明)合成\[
M\stackrel{\phi}{\longrightarrow}L\hookrightarrow\overline{L}=\overline{K}\]を考えると、これは \(\mathrm{Hom}_K(M,\overline{K})\) の元となるので主張1より\[
\phi(M)\subset M\]が成立する。
主張2
続いては有限次拡大に関する特徴づけです。
\(L/K\)を有限次拡大とする。\(a_i\in L\)によって\(L=K(a_1,\dots,a_n)\)と表したとき、以下は同値。\begin{align}&(1)L/Kは正規拡大\\[5pt]&(2)各a_iのK上の共役元はLに含まれる\\[5pt]&(3)LはあるK係数多項式の最小分解体として与えられる\end{align}
最小分解体についてはこちらもご覧ください
(証明)
\((1)\Rightarrow(2)\)は定義から明らか。
\((2)\Rightarrow(3)\)\(a_i\)の\(K\)上の最小多項式を\(f_i(X)\in K[X]\)とする。\(f_i(X)\)の根を\[a_{i1},\dots,a_{ik_i}\in \overline K\quad(a_{i1}=a_iとする)\]とおくと、これらを全て\(K\)に添加した\[K’:=K(a_1,a_{12}\dots,a_{1k_1},a_2,\dots,a_{nk_n})\]は\(K\)係数多項式\(F(X):=\prod_{i}f_i(X)\)の最小分解体である。定義から明らかに\[L\subset K’\]である。逆の包含を示そう。\(a_{ij}\in K’\)は\(a_i\in L\)の\(K\)上の共役元であり、\((2)\)から\[a_{ij}\in L\]となる。従って\(L=K’\)であり、\(L\)は\(F(X)\)の最小分解体として与えられることが分かった。
\((3)\Rightarrow(1)\)\(L\)は\[f(X)=c(X-c_1)\cdots(X-c_m)\in K[X]\]の最小分解体すなわち\[L=K(c_1,\dots,c_m)\]であるとする。\(a\in L\)とし、\(b\in \overline K\)を\(a\)の\(K\)上の共役元とする。このときある\(\phi\in \text{Hom}_K(L,\overline K)\)が存在し、\[\phi (a)=b\]となる(こちらを参照のこと)。ここで\(\phi\)が誘導する環準同型\[L[X]\to\overline K[X]\]による\(f(X)\)の像を\(\phi(f)(X)\)とすると、\(\phi\)が\(K\)上の準同型であることから\[f(X)=\phi(f)(X)\]となる。よって\[c(X-c_1)\cdots(X-c_m)=c(X-\phi(c_1))\cdots(X-\phi(c_m))\]が成立する。両辺の根の集合は等しいので、\[\{c_1,\dots,c_m\}=\{\phi(c_1),\dots,\phi(c_m)\}\]となる。よって\[\phi(L)=K(\phi(c_1),\dots,\phi(c_m))=K(c_1,\dots,c_m)=L\]となり、これより\[b=\phi(a)\in \phi(L)=L\]が従う。以上より\(L/K\)は正規拡大である。
(証明終)
最後に
正規拡大の同値な条件について解説しました。共役や最小分解体などの、そのままでは面白みのなさそうな概念が正規拡大とこのように密接に関わっているというのはおもしろいですね。
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