本記事ではガロア理論の基本定理について解説します。言わずと知れたガロア理論の金字塔で、学部でやる代数学の最終目標の一つとなっていることも多いです。この記事を参考にして、しっかりと理解できるようになりましょう!
準備
\(L/K\)を有限次ガロア拡大とします。本サイトではガロア拡大を以下のように定義しています。
ガロア拡大とは正規かつ分離的な体拡大のことである。
ここで\(L/K\)の中間体全体の集合を\(\mathcal{M}\)、ガロア群\(\mathrm{Gal}(L/K)\)の部分群全体の集合を\(\mathcal{G}\)とおきます。\begin{align}\mathcal{M}&:=\{M\mid M:L/Kの中間体\}\\[10pt]\mathcal{G}&:=\{G\mid G\subset \mathrm{Gal}(L/K):部分群\}\end{align}このとき、\(\mathcal{M}\)と\(\mathcal{G}\)の間に、以下のように写像が定まります。\begin{align}\Phi:\mathcal{M}\to\mathcal{G}&\;;\;M\mapsto \mathrm{Gal}(L/M)\\[5pt]\Psi:\mathcal{G}\to\mathcal{M}&\;;\;G\mapsto L^G\end{align}ここで\(L^G\)は\(G\)の固定体です:\[L^G:=\{a\in L\mid f(a)=a\;(\forall f\in G)\}\]ガロア理論の基本定理は、これらの写像に関する定理です。
主張
主張は以下の通りです。
上の設定の下、以下が成立する。
(i)\(\Phi\)と\(\Psi\)は互いに逆写像となる。
以下、これらの写像により\(M\in \mathcal{M}\)と\(G\in \mathcal{G}\)が対応していること──すなわち\begin{align}M&=L^G\\[5pt]G&=\mathrm{Gal}(L/M)\end{align}となっていることを\[M \sim G\]と表すことにする。
(ii)この対応は包含関係を逆転させる。すなわち、\(M_i\sim G_i\;(i=1,2)\)なら\[M_1\subset M_2\Leftrightarrow G_1\supset G_2\]が成立する。
(iii)\(M_i\sim G_i\;(i=1,2)\)とする。このときこれらの合成、共通部分は以下のように対応する。\begin{align}M_1M_2&\sim G_1\cap G_2\\[5pt]M_1\cap M_2&\sim \langle G_1,G_2\rangle\end{align}ここで\(\langle G_1,G_2\rangle\)は\(G_1\)と\(G_2\)が生成する部分群である。
(iv)\(M\sim G,\phi\in \mathrm{Gal}(L/K)\)とすると、\[\phi(M)\sim \phi G\phi^{-1}\]が成立する。
(v)\(M\sim G\)とする。このとき、以下は同値\begin{align}&(1)\:M/Kはガロア拡大\\[5pt]&(2)\:Gは\mathrm{Gal}(L/K)の正規部分群\end{align}またこれらが成立するとき、\[\mathrm{Gal}(M/K)\cong \mathrm{Gal}(L/K)/G\]が成立する。
ボリューム満点ですね。
証明
さまざまな定理、性質を総動員して証明します。逆に言えばこの定理の証明を追えるようになれば、体論の実力が付いてきたと言えるでしょう。さまざまな性質を使いますが、基本的には別記事で解説していますので各リンクから適宜ご覧ください。
(i)\(M\in \mathcal{M}\)とする。\[(\Psi\circ\Phi)(M)=L^{\mathrm{Gal}(L/M)}\]となる。いま\(L/M\)はガロア拡大なので、\[L^{\mathrm{Gal}(L/M)}=M\]となる(ガロア拡大の特徴づけ)。よって\(\Psi\circ\Phi=\mathrm{id}_{\mathcal{M}}\)が成立する。
\(G\in \mathcal{G}\)とする。\[(\Phi\circ\Psi)(G)=\mathrm{Gal}(L/L^G)\]となるが、アルティンの定理より\(\mathrm{Gal}(L/L^G)=G\)となるので\(\Phi\circ\Psi=\mathrm{id}_\mathcal{G}\)が成立する。
(ii)\(M_1\subset M_2\)とする。このとき\(f\in \mathrm{Gal}(L/M_2)\)とすると、\(f\)は\(M_2\)の元を固定するので、当然\(M_1\)の元も固定する。従って\(f\in \mathrm{Gal}(L/M_1)\)である。よって\[G_1=\mathrm{Gal}(L/M_1)\supset\mathrm{Gal}(L/M_2)=G_2\]が成立する。
逆に\(G_1\supset G_2\)とする。このとき\(x\in L^{G_1}\)とすると、\(x\)は\(G_1\)の元で不変なので、当然\(G_2\)の元でも不変。従って\(x\in L^{G_2}\)である。よって\[M_1=L^{G_1}\subset L^{G_2}=M_2\]が成立する。
(iii)\(M_1M_2\supset M_1,M_2\)より(ii)から\[\mathrm{Gal}(L/M_1M_2)\subset G_1,G_2\]となる。従って\[\mathrm{Gal}(L/M_1M_2)\subset G_1\cap G_2\]が成立する。
一方\(f\in G_1\cap G_2\)とすると\(f\)は\(M_1,M_2\)の元を共に固定するので、\(M_1M_2\)の元を固定する。従って\(f\in \mathrm{Gal}(L/M_1M_2)\)となるので、\[\mathrm{Gal}(L/M_1M_2)= G_1\cap G_2\]すなわち\(M_1M_2\sim G_1\cap G_2\)が成立する。
\(G_1,G_2\subset \langle G_1,G_2\rangle\)より(ii)から\[M_1,M_2\supset L^{\langle G_1,G_2\rangle}\]となる。従って\[M_1\cap M_2\supset L^{\langle G_1,G_2\rangle}\]が成立する。
一方\(x\in M_1\cap M_2\)とすると\(x\)は\(G_1,G_2\)の元で不変なので、\(\langle G_1,G_2\rangle\)の元で不変。従って\(x\in L^{\langle G_1,G_2\rangle}\)となるので、\[M_1\cap M_2= L^{\langle G_1,G_2\rangle}\]すなわち\(M_1\cap M_2\sim \langle G_1,G_2\rangle\)が成立する。
(iv)\(f\in \mathrm{Gal}(L/\phi(M))\)とする。このとき、合成\[\phi^{-1}\circ f\circ\phi\]を考える。任意の\(x\in M\)に対し、\[\phi^{-1}\circ f\circ\phi(x)=\phi^{-1}\circ f(\phi(x))=\phi^{-1}(\phi(x)=x\]が成立するので、\[\phi^{-1}\circ f\circ\phi\in \mathrm{Gal}(L/M)=G\]となる。従って\[f\in\phi G \phi^{-1}\]となる。
逆に\(f\in \phi G\phi^{-1}\)とすると、ある\(g\in G\)が存在し\[f=\phi\circ g\circ\phi^{-1}\]と表せる。このとき任意の\(\phi(x)\in \phi(M)\) \((x\in M)\)に対し、\[f(\phi(x))=\phi(f(x))=\phi(x)\]が成立するので、\(f\in \mathrm{Gal}(L/\phi(M))\)となる。
従って以上より\[\mathrm{Gal}(L/\phi(M))=\phi G\phi^{-1}\]すなわち\(\phi(M)\sim\phi G\phi^{-1}\)が成立する。
(v)\((1)\Rightarrow(2)\) \(M/K\)がガロア拡大であるとし、\(\phi\in \mathrm{Gal}(L/K)\)とする。このとき\(M/K\)が正規拡大であることから、\[\phi(M)=M\]が成立する(正規拡大の性質)。従って\(\mathrm{Gal}(L/\phi(M))=G\)となるが、(iv)より左辺は\(\phi G\phi^{-1}\)に等しい。よって\[\phi G\phi^{-1}=G\]が成立し、\(G\)は正規部分群である。
\((1)\Leftarrow(2)\)\(G\)が正規部分群であるとし、\(\overline K\)を\(L\)を含む\(K\)の代数閉包とする。\(\phi\in \mathrm{Hom}_K(M,\overline K)\)を任意に取り、その拡張\(\overline\phi\in\mathrm{Hom}_K(L,\overline K)\)を一つ取る(拡張の存在はこちらを参照のこと)。このとき\[\overline \phi(L)=L\]が成立し、特に\(\overline\phi\in \mathrm{Gal}(L/K)\)となる(正規拡大の性質)。
ここで\(G\)が正規部分群であることから、\[G=\overline \phi G \overline \phi^{-1}\]が成立する。よって(iv)より\[M=\overline \phi(M)=\phi(M)\]となる。従って正規拡大の特徴づけから、\(M/K\)は正規拡大となる。
またこれらが成立したとき、準同型写像を\[i:\mathrm{Gal}(L/K)\to\mathrm{Gal}(M/K);\phi\mapsto\phi|_M\]と定めることができる。上の証明でみたように\(i\)は全射である。また明らかに\[\phi\in \mathrm{ker}i\Leftrightarrow\phi|_M=\mathrm{id}_M\Leftrightarrow\phi\in\mathrm{Gal}(L/M)=G\]となるので準同型定理から\[\mathrm{Gal}(M/K)\cong\mathrm{Gal}(L/M)/G\]が成立する。
(証明)
最後に
本記事ではガロア理論の基本定理の紹介と証明をしました。言わずと知れた大定理で、その分きちんと理解するためには多くの前提知識や細々とした性質の証明などが必要となります。本記事の証明で用いた内容は基本的には別記事で証明を解説していますので、そちらも参考にしつつ理解を深めてもらえればと思います。
また、今回は一般論の証明に留めましたが、個々の具体的な拡大についてガロア群の構造や中間体との対応を知ることも大切なので、その辺りも今後紹介していこうと思っています。
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