ガロア拡大の特徴づけ

本記事ではガロア拡大の同値な言い換えについて解説します。

定義

本サイトでは以下のようにガロア拡大を定義しています。

ガロア拡大とは正規かつ分離的な体拡大のことである。

詳しくは以下の記事もご覧ください。

本記事で紹介するように、ガロア拡大の定義にはさまざまな同値な言いかえが存在するので、人によっては違う定義を採用している場合があります。

主張

主張は以下の通りです。

有限次拡大\(L/K\)に対し以下は同値。\begin{align}&(1)L/Kはガロア拡大\\[5pt]&(2)|\mathrm{Aut}(L/K)|=[L:K]\\[5pt]&(3)L^{\mathrm{Aut}(L/K)}=K\\[5pt]&(4)LはあるK係数分離多項式の最小分解体である。\end{align}

記号の確認

上の主張に出てくる記号の定義を確認しておきましょう。

\(\mathrm{Aut}(L/K)\)は\(L\)の自己同型で\(K\)の元を変えないもの全体。\[\mathrm{Aut}(L/K)=\{f:L\stackrel{\cong}{\rightarrow}L\mid f(x)=x\;(\forall x\in K)\}\] \(L^{\mathrm{Aut}(L/K)}\)は\(\mathrm{Aut}(L/K)\)の不変体。\(L/K\)の中間体となります。\[
L^{\mathrm{Aut}(L/K)}:=\{x\in L\mid f(x)=x\;(\forall f\in \mathrm{Aut}(L/K))\}\]

証明

体拡大に関するさまざまな性質を総動員します。基本的には他記事にて証明していますので、そちらも各リンクからご覧ください。

\((1)\Rightarrow(2)\)正規拡大の性質から、\[|\mathrm{Aut}(L/K)|=|\mathrm{Hom}_K(L,\overline K)|\]となり、分離拡大の性質から\[|\mathrm{Hom}_K(L,\overline K)|=[L:K]\]となる。よってこれらを合わせて\((2)\)を得る。

\((2)\Rightarrow(3)\)アルティンの定理より\[[L:L^{\mathrm{Aut}(L/K)}]=|{\mathrm{Aut}(L/K)}|\]が成立する。よって\[[L:L^{\mathrm{Aut}(L/K)}]=|{\mathrm{Aut}(L/K)}|=[L:K]=[L:L^{\mathrm{Aut}(L/K)}][L^{\mathrm{Aut}(L/K)}:K]\]となる。従って\([L^{\mathrm{Aut}(L/K)}:K]=1\)すなわち\(L^{\mathrm{Aut}(L/K)}=K\)となる。

\((3)\Rightarrow(1)\)\(a\in L\)とする。ここで集合\[S:=\{\phi(a)\in L\mid \phi\in \mathrm{Aut}(L/K)\}\]を考える。\(n:=|S|\)とおき、\[S=\{a_1,\dots,a_n\}\quad(a_1=aとする)\]と表す。各\(a_i\)に対し\(a_i=\phi_i(a)\)なる\(\phi_i\in \mathrm{Aut}(L/K)\)を取り、固定しておく。ここで、多項式\[F(X):=\prod_{i=1}^n(X-a_i)\]を考える。まずは\(F(X)\)の係数が\(K=L^{\mathrm{Aut}(L/K)}\)の元であることを示す。まず、\(\phi\in \mathrm{Aut}(L/K)\)が誘導する写像\[\phi_S:S\to S\;;\;a_i\mapsto \phi(a_i)\]について考える。\(\phi\)が単射であることから、\(\phi_S\)も単射。\(S\)は有限集合なので、これより\(\phi_S\)は全射にもなる。よって特に\[\{\phi(a_1),\dots,\phi(a_n)\}=\{a_1,\dots,a_n\}\]となる。すなわち\(\phi(a_1),\dots,\phi(a_n)\)は\(a_1,\dots,a_n\)の並び替えに他ならないということ。また、\(s_k(X_1,\dots,X_n)\)を変数\(X_1,\dots,X_n\)に関する\(k\)次基本対称式とすると、\(F(X)\)の\(k\)次の係数は\(s_k(a_1,\dots,a_n)\)に等しい。対称式は元の並び替えで不変なので、\(\phi\in \mathrm{Aut}(L/K)\)に対し、\[\phi(s_k(a_1,\dots,a_n))=s_k(\phi(a_1),\dots,\phi(a_n))=s_k(a_1,\dots,a_n)\]となる。従って\(F(X)\)の係数は\(\mathrm{Aut}(L/K)\)の元で不変、すなわち\(L^{\mathrm{Aut}(L/K)}=K\)の元であることが分かった。

ここで\(a\)の\(K\)上の最小多項式を\(f(X)\in K[X]\)とすると、\(f(X)\)は\(F(X)\)を割り切る。定義から\(F(X)\)は分離多項式なので、\(f(X)\)も分離多項式となる。よって\(L/K\)は分離拡大である。また、\(L\)は\(F(X)\)の分解体となっているので、\(f(X)\)の分解体にもなっている。よって\(L/K\)は正規拡大にもなっている。

以上より、\(L/K\)はガロア拡大である。

\((1)\Rightarrow(4)\)\(L/K\)を有限次ガロア拡大とし、\(a_1,\dots,a_n\in L\)により\[L=K(a_1,\dots,a_n)\]と表す。\(S:=\{a_1,\dots,a_n\}\)とおく。ここで、ある\(i\neq j\)に対し\(a_i\)と\(a_j\)が\(K\)上共役だとすると、\(L/K\)が正規拡大であることから、\[a_j\in K(S\:\backslash \{a_j\})\]となるので、\[L=K(S)=K(S\:\backslash \{a_j\})\]と、生成元を一つ減らせる。これを繰り返すことで、\(i\neq j\)に対し\(a_i\)と\(a_j\)は\(K\)上共役ではないとしてよい。このとき\(a_i\)の\(K\)上の最小多項式を\(f_i(X)\in K\)としたら、\(i\neq j\)に対し\(f_i\)と\(f_j\)は共通根を持たない。また\(L/K\)が分離拡大であることより\(f_i(X)\)は分離多項式である。従って\[F(X):=\prod_if_i(X)\]とおくと、これは分離多項式となる。ここで\(f_i(X)\)の根を\(a_{i,1},\dots,a_{i,n_i}\) (\(a_{i,1}=a_i\))とすると、\(F(X)\)の最小分解体は\(K(\{a_{i,j}\}_{i,j})\)で与えられる。定義から\[L\subset K(\{a_{i,j}\}_{i,j})\]となる。一方\(a_{i,j}\)は\(a_i\in L\)の\(K\)上の共役元で、\(L/K\)は正規拡大なので\[a_{i,j}\in L\quad(j=1,\dots,n_i)\]となる。従って\[L\supset K(\{a_{i,j}\}_{i,j})\]となるので、結局、\(L\)が\(F(X)\)の最小分解体で与えられることが分かった。

\((4)\Rightarrow(1)\)\(L\)を分離多項式\(f(X)\in K[X]\)の最小分解体とする。すなわち、\(f(X)\)の根を\(a_1,\dots,a_n\in \overline K\)としたとき、\[L=K(a_1,\dots,a_n)\]と表せるとする。まず正規拡大の特徴づけから、\(L/K\)は正規拡大である。また、各\(a_i\)の\(K\)上の最小多項式\(f_i(X)\in K[X]\)は\(f(X)\)を割り切るので、\(f_i(X)\)も分離多項式である。よって\(a_i\)は\(K\)上分離的であり、分離拡大の特徴づけから、\(L/K\)は分離拡大になる

以上より\(L/K\)はガロア拡大である。

(証明終)

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