本記事では商体の定義の同値な言い換えについて紹介、証明します。
主張
\(A\)を整域、\(K\)を体、\(A\)の商体を\(\mathrm{Frac}(A):=A_{(0)}\)とする。このとき以下は同値。
\begin{align} &(1)\:K\cong \mathrm{Frac}(A)\\[5pt]&(2)\:KはAを含む最小の体である。\end{align}
※ここで\(K\)が\(A\)を含むとは、単射\(i:A\hookrightarrow K\)が存在するという意味です。\(A\)を部分環\(\;i(A)\subset K\)と同一視しているわけですね。
※※(2)の主張を正確に書けば、”☆単射\(\phi:A\hookrightarrow K\)が存在し、任意の体\(L\)と単射環準同型\(f:A\hookrightarrow L\)に対し、環準同型\(\psi:K\hookrightarrow L\)が存在し\(f=\psi \circ \phi\)が成立する”となります。
証明
\((1)\Rightarrow(2)\)
\(\mathrm{Frac}(A)\)が\(A\)を含む体の中で最小であることを言いたいので、体\(L\)と単射\(f:A\hookrightarrow L\)を任意にとる。この時\(f:\)単射より、ゼロでない元\(a\in A\)に対し$$f(a)\neq 0\in L$$となる。今\(L\)は体なので、\(f(a)\)は\(L\)の単元となる。よって局所化の普遍性より環準同型$$\widetilde{f}:\mathrm{Frac}(A)\to L$$が存在する。\(\mathrm{Frac}(A)\)は体なので、\(\widetilde{f}\)は単射。以上で\(\mathrm{Frac}(A)\)は\(A\)を含む任意の体に含まれることが示せた。
\((2)\Rightarrow(1)\)
\(K\)が上記の☆を満たしたとする。いま自然な環準同型\(i:A\to \mathrm{Frac}(A)\)は単射なので、(2)より環準同型\(\psi:K\to \mathrm{Frac}(A)\)が存在し、\(i=\psi \circ \phi\)が成立する。
一方\(\phi:A\to K\)が単射なので、上と同様に局所化の普遍性より環準同型\(j:\mathrm{Frac}(A)\to K\)で\(\phi=j\circ i\)を満たすものが一意に存在する。ここで局所化の普遍性について思い出すと、\(\displaystyle \frac{a}{b}\in \mathrm{Frac}(A)\)に対し$$j\left( \frac{a}{b} \right) = \phi(a)\phi(b)^{-1}$$と表せる。よって\begin{align}(\psi\circ j)\left(\frac{a}{b}\right)&=\psi(\phi(a)\phi(b)^{-1})\\&=i(a)i(b)^{-1}\\&=\frac{a}{b}\end{align}となり、\(\psi\circ j=id\)が成立する。特に\(\psi\)は全射である。
以上より\(\psi:K\to \mathrm{Frac}(A)\)は同型写像である。
(証明終わり)
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