アイゼンシュタインの既約判定法

本記事ではアイゼンシュタインの既約判定法について解説します。一般化された形の主張についても紹介しているのでぜひご覧ください。

定理 (UFD版)

主張は以下の通りです

\(A\)をUFD、\(K:=\mathrm{Frac}(A)\)をその商体とする。\(A\)係数多項式$$f(X)=a_nX^n+a_{n-1}X^{n-1}+\dots+a_1X+a_0\in A[X]$$に対し、ある素元\(p\in A\)が存在し、以下の条件を満たしたとする。\begin{align}&(1)&p\;\not|\:&a_n\\[5pt]&(2)&p\;\;\;|\:&a_i\qquad(i=0,…,n-1)\\[5pt]&(3)&p^2\not|\:&a_0\end{align}このとき\(f(X)\)は\(K[X]\)で既約。

ここで、\(p\;|\;a\)とは、\(a\)が\(p\)の倍元(\(\Leftrightarrow a\)は\(p\)で割り切れる)という意味です。

こう書くと少し分かりづらいですが、そんなに難しいことは言っていません。少し使ってみましょう。

使い方1

\(A=\mathbb{Z}\)として考えてみます。\(K=\mathbb{Q}\)となりますね。ここで\(X^2+2X+2\)という多項式に対し、素数\(p=2\)が上の三条件を満たすことを確認してみましょう。

  1. 最高次係数\(a_2\)は\(1\)。\(1\)は\(2\)で割り切れないのでOK。
  2. それ以外の係数はともに\(2\)。これらは\(2\)で割り切れるのでOK。
  3. 定数項\(a_0\)は\(2\)。これは\(p^2=4\)では割り切れないのでOK。

以上のことからアイゼンシュタインの既約判定法が適用できて、\(X^2+2X+2\)が\(\mathbb{Q}[X]\)で既約なことが分かります。

このように、多項式が既約なことを示すのに非常に便利な方法です。基本的に、多項式がそれ以上分解できないことを証明することの方が、分解できることを証明することより難しいです。なのでこのような既約性の判定法は知っておくととても役に立ちます。

使い方2

次は少し工夫が必要な使い方をしてみましょう。次の事実を用います。

多項式\(f(X)\in A[X]\)と\(a\in A\)に対し、$$f(X)が可約\Leftrightarrow f(X+a)が可約$$が成立する。

(証明) \begin{align}f(X)が可約&\Leftrightarrow f(X)=g(X)h(X)\\&\Leftrightarrow f(X+a)=g'(X)h'(X)\\&\Leftrightarrow f(X+a)が可約\end{align}ただし\(g'(X)=g(X+a),h'(X)=h(X+a)\)とおいた。

この事実によると、\(f(X)\)の既約性は\(f(X+a)\)の既約性を示せば従うことが分かります。

では、\[f(X)=X^2+4X+5\]という多項式を考えてみましょう。係数をみてみると、アイゼンシュタインの判定法が使えないことが分かります。しかしここで\(X\mapsto X-1\)と変換してみると、$$f(X-1)=(X-1)^2+4(X-1)+5=X^2+2X+2$$となります。上で見たようにアイゼンシュタインの判定法からこれは既約であり、従って元の\(X^2+4X+5\)が既約なことも分かります。

このように適切に変数変換し、アイゼンシュタインの判定法を使えるように変形するテクニックはときどき使えるので覚えておくとよいでしょう。

定理(整域版)

実は冒頭の定理はもう少し一般化することができます。具体的には以下の通りです。

\(A\)を整域とする。\(A\)係数多項式$$f(X)=a_nX^n+a_{n-1}X^{n-1}+\dots+a_1X+a_0\in A[X]$$に対し、ある素イデアル\(P\subset A\)が存在し、以下の条件を満たしたとする。\begin{align}&(1)\;a_n\notin P\\&(2)\;a_i\in P\quad (i=0,…,n-1)\\&(3)\;a_0\notin P^2\end{align}このとき\(f(X)\)は\(A[X]\)の中で一次以上の多項式の積に分解できない。

つまり\(f(X)=g(X)h(X)\)と表したとき\(g(X),h(X)\)のどちらかは定数だということです。これは既約ということではないので注意しましょう。(一般には定数だからといって単元というわけではない)

このバージョンで\(P=(p)\)としたのが冒頭の定理となります。\(A\)がUFDであることからガウスの補題が使えて、\(K[X]\)での既約性まで言えてしまうわけですね。

証明

一般化バージョンを証明します。

\(f(X)\)が一次以上の多項式の積に分解できたと仮定し、矛盾を導く。\[f(X)=g(X)h(X)\]とし、\begin{align}g(X)&=b_lX^l+\dots+b_1X+b_0\\h(X)&=c_mX^m+\dots+c_1X+c_0\end{align}とおく。(\(l,m\geq1,\:b_l,c_m\neq0,\:b_k,c_j\in A\))

また、\(a\in A\)の剰余環\(A/P\)における像を\(\overline a\)、多項式\(F(X)\in A[X]\)の\((A/P)[X]\)における像を\(\overline F(X)\)と書くことにする。いま条件(2)から、\(\overline a_i=0\;(i=0,…,n-1)\)なので、$$\overline g(X)\overline h(X)=\overline f(X)=\overline a_nX^n$$となる。このとき\(\overline g(X)と\overline h(X)\)はともに単項式となる

(証明)そうでないと仮定したとき、一般性を失うことなく\(\overline g(X)\)が単項式でないとしてよい。このとき\(\overline g(X)と\overline h(X)\)の最高次の項をそれぞれ\(\beta X^s,\gamma X^t\)とし、最小次の項をそれぞれ\(\beta’X^{s’},\gamma’X^{t’}\)とすると、\[s>s’,t\geq t’\;\cdots(*)\]が成立する。いま\(A/P\)は整域なので、\(\beta\gamma,\beta’\gamma’\neq0\)となる。また、\(\beta\gamma X^{s+t},\beta’\gamma’X^{s’+t’}\)以外の\(\overline g(X)\overline h(X)\)の項の次数は\(s+t\)より小さく\(s’+t’\)より大きいので、この2項は打ち消されることはない。従って\(\overline g(X)\overline h(X)\)の各項の最高次数は\(s+t\)で、最小次数は\(s’+t’\)となる。いま\((*)\)から$$s+t>s’+t’$$となるので、\(\overline g(X)\overline h(X)\)は単項式ではないことが従うが、これは$$\overline g(X)\overline h(X)=\overline a_nX^n$$に矛盾する。よって\(\overline g(X)と\overline h(X)\)はともに単項式となる。(証明終)

いま\(A\)は整域なので\(b_lc_m=a_n\)である。よって\(\overline b_l\overline c_m=\overline a_n\neq0\)より\(\overline b_l,\overline c_m\neq0\)となるので、これらがそれぞれの\(0\)でない唯一の係数である。以上より$$\overline g(X)=\overline b_lX^l,\quad\overline h(X)=\overline c_mX^m$$が成立する。これより特に\(\overline b_0,\overline c_0=0\)すなわち\(b_0,c_0\in P\)が従い、これより$$a_0=b_0c_0\in P^2$$となるが、これは条件(3)に矛盾する。

(証明終)

コメント

  1. SynoSyno より:

    中学生です.インターネットにアイゼンシュタインの定理の証明がなかったのでとても助かります(Wikipediaにものってない!).
    整数問題で無双できそうです.
    修論頑張ってください.

    • Verniy73 Verniy73 より:

      コメントありがとうございます!本記事がお役に立てたのならば大変うれしく思います。
      修論頑張ります……!

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