共役(体論)

本記事では体論における共役元の定義とその性質について解説します。さまざまな体の拡大の性質を共役元の概念を使って説明できるので、しっかり理解しておきましょう!

定義

定義は以下の通りです。

\(L/K\)を体の拡大とし、\(a,b\in L\)を\(K\)上代数的な元とする。

\(a\)と\(b\)の\(K\)上の最小多項式が一致するとき、\(a\)と\(b\)は\((K\)上)共役であるという。

少しこの定義を言い換えてみましょう。\(a\in L\)を\(K\)上代数的な元とし、\(a\)の\(K\)上の最小多項式を\(f(X)\in K[X]\)とします。

\(f(X)\)の根を一つ取り、\(b\in \overline K\)とおいてみます(\(\overline K\)は\(K\)の代数閉包)。このとき、\(f(X)\)は\(b\)を根に持つモニック既約多項式なので、\(b\)の\(K\)上の最小多項式となります。従って\(a\)と\(b\)は\(K\)上共役です。

逆に\(b\in \overline K\)を\(a\)の\(K\)上の共役元とすると、\(b\)の\(K\)上の最小多項式は\(f(X)\)です。特に\(b\)は\(f(X)\)の根となります。

以上から、\(a\)の\(K\)上の共役元とは、その\(K\)上の最小多項式の根に他ならないことが分かります:

\(a,b\in\overline K\)と\(a\)の\(K\)上の最小多項式\(f(X)\in K[X]\)に対し以下は同値。\begin{align}&(1)\quad aとbはK上共役\\[5pt]&(2)\quad f(b)=0\end{align}

少し例を見てみましょう。

例1

まずは簡単のため\(\mathbb{C}/\mathbb{R}\)という拡大を考えます。

\(i\in \mathbb{C}\)を虚数単位とします。まず\(1+i\in \mathbb{C}\)の\(\mathbb{R}\)上の共役元を求めてみましょう。\(1+i\)の\(\mathbb{R}\)上の最小多項式は\[X^2-2X+2\in \mathbb{R}[X]\]で与えられます。これは\(\mathbb{C}[X]\)において\[(X-1-i)(X-1+i)\]と因数分解できます。従ってもう一つの根 \(1-i\) の\(\mathbb{R}\)上の最小多項式も\(X^2-2X+2\)となります。

以上で\(1+i\)と\(1-i\)は\(\mathbb{R}\)上共役ということが分かりました。

ところでこの組み合わせ、見覚えはないでしょうか?そう、中高ではこれらは複素共役(あるいは共役な複素数)と呼ばれる関係にありました。本記事で扱っている共役という概念は、この複素共役を一般の体拡大に拡張したものということです。

例2

もう一つ例を見てみましょう。\(\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)/\mathbb{Q}\)という拡大を考えます。\(\sqrt[3]2\in \mathbb{Q}(\sqrt[3]2)\)の\(\mathbb{Q}\)上の最小多項式は\[X^3-2\]です。これは\(\mathbb{C}[X]\)において\[(X-\sqrt[3]2)(X-\omega\sqrt[3]2)(X-\omega^2\sqrt[3]2)\qquad(\omega:=\frac{-1+i\sqrt3}{2})\]と分解できます。従って\(\sqrt[3]2\)の\(\mathbb{Q}\)上の共役元は\(\sqrt[3]2,\omega\sqrt[3]2,\omega^2\sqrt[3]2\)の3つだと分かります。

ここで注意したいのが、\(\omega\sqrt[3]2,\omega^2\sqrt[3]2\)は実数ではないので、\[\omega\sqrt[3]2,\omega^2\sqrt[3]2\notin \mathbb{Q}(\sqrt[3]2)\]となってしまいます。このように一般に代数拡大\(L/K\)に対し、\(a\in L\)の\(K\)上の共役元がまた\(L\)に入ってくれるとは限りません。

これが成立する素性のよい拡大のことを、正規拡大と呼びます。

性質

共役元に関する基本的な性質を見てみましょう。

性質1

まずは共役な元がそれぞれ生成する体の関係についてです。

\(L/K\)を代数拡大、\(a,b\in L\)を\(K\)上共役な元とする。このとき、\(K(a)\)と\(K(b)\)は\(K\)上同型である。さらに\(K\)上の同型写像として\(a\)に\(b\)が対応しているものが取れる:\[\phi : K(a)\stackrel{\cong}{\longrightarrow} K(b)\;;\;a\mapsto b\]

(証明)\(a,b\)の\(K\)上の最小多項式を\(f(X)\)とする。代入による準同型\[K[X]\to K(a)\;;\;F(X)\mapsto F(a)\]は\(K\)上の同型\[\phi_a:K[X]/(f(X)\to K(a)\;;\;\overline {F(X)}\mapsto F(a)\]を誘導する。\(b\)の方も同様に\(K\)上の同型\(\phi_b\)が得られる。このとき合成\[\phi:=\phi_b \circ\phi_a^{-1}:K(a)\stackrel{\cong}{\rightarrow} K[X]/(f(X))\stackrel{\cong}{\rightarrow}K(b)\]は\(K\)上の同型であり、定義から\[\phi(a)=\phi_b(\phi_a^{-1}(a))=\phi_b(\overline X)=b\]となり、これが条件を満たす写像となる。

(証明)

性質2

次は準同型を用いた共役元の特徴づけです。

\(L/K\)を代数拡大、\(a\in L,b\in\overline K\)とするとき、以下は同値。\begin{align}&(1)\quad aとbはK上共役\\[5pt]&(2)\quad ある\overline \phi\in \text{Hom}_K(L,\overline K)に対し\overline \phi(a)=b\end{align}

(証明)
\((1)\Rightarrow(2)\)性質1から、\(K\)上の同型\[\phi :K(a)\stackrel{\cong}{\longrightarrow}K(b)\]で\(\phi(a)=b\)となるものが存在する。これと包含\(i:K(b)\hookrightarrow \overline K\)を合成して、\(K\)上の準同型\[\phi’:K(a)\to \overline K\]を得る。ここで代数閉包の性質から、\(\phi\)は\(L\)に拡張できる。すなわち\(\overline \phi\in \text{Hom}_K(L,\overline K)\)が存在し、\[{\overline \phi}|_{K(a)}=\phi\]を満たす。これが条件を満たす準同型である。

\((1)\Leftarrow(2)\)\(a\)の\(K\)上の最小多項式を\(f\in K[X]\)とし、\(\overline \phi\)が誘導する\(K\)上の準同型\[L[X]\to \overline K[X]\]を同じく\(\overline \phi\)で表す。このときまず\(f\)が\(K\)係数であることから \[\overline \phi \left(f\right)=f\]が成立する。また、定義から\[f(\overline \phi(a))=\overline \phi(f)(a)\]となるので結局、\[f(\overline \phi(a))=\overline \phi(f)(a)=f(a)=0\]となり、\(\overline \phi (a)=b\)も\(f\)の根となる。従って\(b\)は\(a\)の\(K\)上の共役元である。

(証明終)

代数閉包への準同型\(\text{Hom}_K(L,\overline K)\)は、さまざまな拡大の性質を説明する為にしばしば現れます。それとこのように密接につながっていることからも、共役元の概念の有用性がうかがえます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました