最小分解体

本記事では最小分解体について解説します。

定義

\(K\)を体、\(\overline K\)をその代数閉包とする。多項式\(f(X)\in K[X]\)の\(\overline K[X]\)における分解を、\[f(X)=c(X-a_1)\cdots(X-a_n)\quad(c\in K,\: a_i\in \overline K)\]とする。このとき、拡大体\(K(a_1,\dots,a_n)\)を\(f(X)\)の最小分解体と呼ぶ。

その名の通り、\(f(X)\)を分解するのに必要な最低限の元を添加した体のことです。

注意

微妙に気になるのが、代数閉包は一意に存在するわけではないという事実です。上の定義だと、代数閉包の取り方によって最小分解体が変わってしまう可能性が否定できません。まずは、最小分解体が同型を除いて一意に定まることをチェックしておきましょう。

\(K’\)を別の\(K\)の代数閉包とする。このとき代数閉包の性質から、\(K\)上の体同型\[\phi:\overline K\to K’\]が存在する。\(a’_i:=\phi(a_i)\)とおくと、\(K'[X]\)における\(f(X)\)の分解は\[f(X)=c(X-a’_1)\cdots(X-a’_n)\quad\]で与えられる。従って\(K’\)から得られる最小分解体は\(K(a’_1,\dots,a’_n)\)となる。このとき\(\phi\)が誘導する準同型\[K(a_1,\dots,a_n)\to K(a’_1,\dots,a’_n);a_i\mapsto a’_i\]がこれらの\(K\)上の同型を与える。

少し例を見てみましょう。\(\mathbb{Q}\)上の多項式について考えます。代数閉包\(\overline {\mathbb{Q}}\)は\(\mathbb{C}\)に含まれているものを考えます。

例えば\(X^2-2\)は\((X-\sqrt2)(X+\sqrt2)\)と分解されるので、その最小分解体は\[\mathbb{Q}(\sqrt2,-\sqrt2)=\mathbb{Q}(\sqrt2)\]になります。同様に\(X^4-1\)について考えると、これは\[X^4-1=(X-1)(X+1)(X-\sqrt{-1})(X+\sqrt{-1})\]と分解されるので、その最小分解体は\[\mathbb{Q}(1,-1,\sqrt{-1},-\sqrt{-1})=\mathbb{Q}(\sqrt{-1})\]となります。これは\(X^2+1\)の最小分解体でもありますね。

最後に

最小分解体の定義には代数閉包の存在を仮定せず、別の方法を用いる流儀もありますが、今回は代数閉包に根をつけ加えるという直感的にも分かりやすい定義を採用しました。

このままでは特に面白みのなさそうな概念ですが、実は正規拡大という体の拡大に密接に関わっています。この辺りのことは後々別記事で紹介する予定です。

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