環の局所化の基本的な性質

本記事では環の局所化について、一般論的な性質を紹介します。

定義

環の局所化の定義は以下の記事で紹介しているので、確認の為にもぜひご覧ください。

性質1

局所化した環に、元の環からくる特徴的な写像があります。

\(A\)を可換環、\(S\subset A\)を積閉集合とする。この時、以下のように環準同型が定まる。\[ i:A\to A_S;a\mapsto \frac{a}{1}\]これを自然な環準同型などと呼ぶ。

本記事で取り扱う性質は、ほぼこの環準同型に起因しているものです。ちなみに、この準同型は局所化の普遍性という偉大な性質にも関わってくるのですが、それについては以下の記事で紹介しています。

性質2

環が与えられたからには、まずはそのイデアルが気になるところです。

\(A_S\)のイデアルは、すべて\(A\)のイデアルから誘導される。すなわち、任意のイデアル\(I\subset A_S\)に対し、\(A\)のイデアル\(J\subset A\)を\[J:=i^{-1}(I)\]で定めると、$$I=JA_S$$が成立する。ここで\(JA_S\)とは、\(i(J)\)が生成する\(A_S\)のイデアルのこと。

イデアルの形が決定されているのはなんだか嬉しいですね。これを証明する前に、後で使う補題を用意しておきます。

補題
\(J\)を\(A\)のイデアルとすると、以下が成り立つ。$$JA_S=\left\{\frac{a}{b}\middle\vert\; a\in J, b\in S\right\}$$証明
\(a/b\in \)(右辺)とすると、\(a\in J\)より\[\frac{a}{1}=i(a)\in i(J)\]となる。従って\[\frac{a}{b}=i(a)\cdot\frac{1}{b}\in JA_S\]となるので、(左辺)\(\supset\)(右辺)が分かる。
逆に\(x\in JA_S\)とすると、定義より$$x=\sum_{i=1}^{n}i(c_i)\cdot \frac{a_i}{b_i}\:\:(a_i\in A,b_i\in S,c_i\in J)$$と表される。もう少し計算すると、\begin{align}x&=\sum_{i=1}^{n}i(c_i)\cdot \frac{a_i}{b_i}\\&=\sum_{i=1}^{n}\frac{c_ia_i}{b_i}\\&=\frac{\sum_{i=1}^{n}c_ia_i\prod_{i\neq j}b_j}{b_1\cdots b_n}\end{align}となり、\(J\)はイデアルだったので、(分子)\(\in J\)となり、\(x\in \)(右辺)が従う。
(証明終)

性質2の証明
\(I\supset i(i^{-1}(I))=i(J)\)より$$I\supset JA_S$$が成立するので、以下逆向きの包含を示す。\(a/b\in I\)を任意に取る。このとき、$$i(a)=\frac{a}{1}=\frac{b}{1}\cdot \frac{a}{b}\in I$$より、\(a\in J\)となる。従って$$\frac{a}{b}=i(a)\cdot \frac{1}{b}\in JA_S$$となり、\(I\subset JA_S\)を得る。

性質3

素イデアルについてはさらに良い対応があります。

\(p\subset A_S\)を素イデアルとする。この時、$$p\mapsto i^{-1}(p)$$は以下の全単射を与える。$$\Phi : \mathrm{Spec}(A_S)\stackrel{\cong}{\longrightarrow} \{ q\in \mathrm{Spec}(A) \;\vert\; q\cap S =\emptyset\}$$ここで\(\mathrm{Spec}(A)\)とは、\(A\)の素イデアル全体の集合のこと。

\(\mathrm{Spec}(A)\)については以下の記事もご覧ください。

証明
まず\(i^{-1}(p)\cap S=\emptyset\)を確認する。そうでないと仮定すると、\(x\in i^{-1}(p)\cap S\)が取れる。このとき$$i(x)=\frac{x}{1}\in p $$となるが、\(x\in S\)より$$\frac{1}{x}\in A_S$$なので、$$\frac{1}{x}\cdot \frac{x}{1}=1\in p$$となり、\(p\)が素イデアルなことに矛盾。よって\(i^{-1}(p)\cap S=\emptyset\)である。

次に逆向きの写像$$\Psi : \{ q\in \mathrm{Spec}(A) \;\vert\; q\cap S =\emptyset\}\to \mathrm{Spec}(A_S)$$を、\(q\mapsto qA_S\)によって定める。
(well-definedness)
$$\frac{a}{b}\cdot \frac{c}{d}\in qA_S$$とすると、上の補題より\(ac\in q\)となるので、\(q\)が素イデアルな事より、\(a\in q\)または\(c\in q\)が成立。従って$$\frac{a}{b}\in qA_S または\frac{c}{d}\in qA_S$$となり、\(qA_S\)が素イデアルなことが分かる。

この\(\Psi\)が\(\Phi\)の逆写像となることを示す。性質2より、\[\Psi\circ\Phi(p)=\Psi(i^{-1}(p))=i^{-1}(p)A_S=p\]すなわち\(\Psi\circ\Phi=\mathrm{id}\)が分かる。あとは\(\Phi\circ\Psi=\mathrm{id}\)すなわち$$q=i^{-1}(qA_S)$$を示せばよい。一般論から\(q\subset i^{-1}(qA_S)\)は成立するので、逆の包含を示す。\(x\in i^{-1}(qA_S)\)とすると、$$i(x)=\frac{x}{1}\in qA_S$$となり、上の補題より、\(x\in q\)となる。以上より\(\Psi\)は\(\Phi\)の逆写像となる。よって\(\Phi\)は全単射である。

最後に

本記事ではかなり基本的な性質に絞って紹介しましたが、普遍性をはじめまだまだ面白い性質があるので、他記事の方も見ていってください!

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