局所化の重要な例

本記事では、環の局所化の具体例の中でもとりわけ重要なものについて解説します。

定義

環の局所化の定義については以下の記事で解説しています。定義の確認のためにもぜひご覧ください。

具体例

応用上重要な局所化の例は、大きく以下の三つに分かれます。

  1. 素イデアルによる局所化
  2. ある元の冪による局所化
  3. 商体

順にみていきましょう。

例1,2

定義

\(A\)を可換環とする。ここで、素イデアル\(p\subset A\)と\(f\in A\)に対し、\begin{align}S&:=A\backslash \: p\\[5pt] T&:=\{f^k|k \ge 0\}\end{align}と定める。これらはともに積閉集合となる。
この時、\(A\)の\(S\)による局所化を\(A_p\)と書き、\(A\)の\(p\)による局所化と呼ぶ。
また一方、\(A\)の\(T\)による局所化を\(A_f\)と書き、\(A\)の\(f\)による局所化と呼ぶ。

※一つ目の方は本来ならば\(A\)の\(A\backslash p\)による局所化と呼び、\(A_{A\backslash p}\)と表すべきものですが、慣例的にこのようなことになっています。素イデアルが積閉集合になることはないので、混同の恐れはないでしょう。

まずは\(S,T\)が積閉集合となることを見ておきましょう。

証明
\(T\)の方は明らかなので、\(S\)についてのみ示す。
\(p\)は素イデアルなので、\(p\ne A\)となり、特に\(1\)を含まない。よって$$1\in S$$である。また\(a,b\in S\)とすると、これはすなわち\(a,b\notin p\)ということなので、\(ab\in p \)と仮定すると\(p\)が素イデアルなことに矛盾する。よって\(ab\notin p\)すなわち\(ab\in S\)となる。

性質

素イデアル\(p\)に対し、\(A_p\)は\(pA_p\)を唯一の極大イデアルとして持つ局所環となる。

証明
局所環であることを言うには、非単元全体がイデアルをなすことを示せば十分である。実際、$$A_p\backslash A_p^\times=pA_p$$と表せることを示す。右辺は$$\left\{\frac{a}{b}\in A_p\middle\vert\; a\in p,b\notin p\right\}$$と表せるので、補集合を考えることで、$$A_p^{\times}=\left\{\frac{a}{b}\in A_p\middle\vert\; a,b\notin p\right\}$$を示せばよいことが分かる。\(a/b\in A_p^{\times}\)とすると、ある\(c/d\in A_p\)が存在し、$$\frac{a}{b}\cdot \frac{c}{d}=1$$となる。これはすなわち定義より$$s(ac-bd)=0\:(\exists s\in A\backslash\; p)$$ということ。ここで\(a\in p\)と仮定すると、$$sac=sbd$$より\(sbd\in p\)となるが、今\(b,d,s\notin p\)なので\(p\)が素イデアルなことに矛盾する。よって\(a\notin p\)となり\(a/b\in\)(右辺)が従う。
逆に\(a/b\in\)(右辺)とすると、\(a\notin p\)より$$\frac{b}{a}\in A_p$$なので、\(a/b\in A_p^{\times}\)となる。
よって$$A_p^{\times}=\left\{\frac{a}{b}\in A_p\middle\vert\; a,b\notin p\right\}$$
(証明終)

また、局所化の素イデアルについての性質をそれぞれの場合に適応することで、以下の全単射が得られます。

\begin{align}\{q\in \mathrm{Spec}A\mid p\subset q\}&\cong \mathrm{Spec}A_p\\q&\leftrightarrow qA_p\\\\ \{q\in \mathrm{Spec}A\mid f\notin q\}&\cong \mathrm{Spec}A_f\\q&\leftrightarrow qA_p\end{align}

詳しくは以下の記事もご覧ください。

例3.商体

こちらは例1のさらに特別な場合です。

\(A\)を整域とする。このとき零イデアル\((0)\)は素イデアルであり、これによる\(A\)の局所化を\(A\)の商体と呼び、\(\mathrm{Frac}(A)\)と表す。

例えば、整数全体\(\mathbb{Z}\)の商体は有理数体\(\mathbb{Q}\)となります。商体に関しては同値な言い換えが存在するので、本や先生によっては異なる定義を採用しているかもしれません。詳しくは以下の記事で紹介しているので、ぜひご覧ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました