本記事ではフロベニウス写像について解説します。正標数の体の最も重要な性質なので、しっかりと理解しておきましょう!
準備
まずはフロベニウス写像の定義に必要な、正標数の体に特有の性質を見ていきます。
\(K\)を標数\(p>0\)の体とする。このとき、\(a,b\in K\)に対し、\[(a+b)^p=a^p+b^p\]が成立する。
一見おかしな等式ですね。皆さんも中高生のときに\[(x+y)^2=x^2+y^2\]としてしまって減点されたことが一度くらいはあるのではないでしょうか。このようにうっかりやってしまいがちな誤った等式が、正標数の環においては成立します。そういう意味で、この等式は”一年生の夢”とか呼ばれたりするらしいです。(聞いたことはありませんが……)
(証明)二項定理から、\[(a+b)^p=\sum_{n=0}^p{p\choose n}a^nb^{p-n}\]と展開できる。ここで\(n\neq0,p\)なる\(n\)に対する二項係数\({p\choose n}\)について考える。二項係数は\[{p\choose n}=\frac{p!}{n!(p-n)!}\]と表される。分母を払って\[n!(p-n)!{p\choose n}=p!\cdots(*)\]と書き直しておく。ここで、\(0<n<p\)なら\(n!\)は\(p\)で割り切れないということに注意しておく。いま式\((*)\)の右辺は明らかに\(p\)の倍数。よって左辺も\(p\)の倍数だが、いま\(0<n<p\)より\(0<p-n<p\)でもあるので、\(n!,(p-n)!\)は\(p\)の倍数ではない。
従って\({p\choose n}\)が\(p\)の倍数である。
よって、いま\(K\)は標数\(p\)なので\(n\neq0,p\)に対し\[{p\choose n}a^nb^{p-n}=0\]が成立する。
以上より\begin{align}(a+b)^p&=\sum_{n=0}^p{p\choose n}a^nb^{p-n}\\[5pt]&={p\choose p}a^p+{p\choose 0}b^p\\[5pt]&=a^p+b^p\end{align}が成立する。
(証明終)
定義
では本題に移りましょう。
\(K\)を標数\(p>0\)の体とする。このとき\(p\)乗する写像\[K\to K\;;\;a\mapsto a^p\]をフロベニウス写像と呼ぶ。
どうでしょうか。「それだけ?」とお思いの方もいるかもしれません。実際その通りで、写像そのものはただ\(p\)乗するだけという極めて単純なものです。
ではなぜこれに”フロベニウス写像”などという大仰な名前がついているのか。それはこの写像が環準同型になっているからです。
実際\(0^p=0,1^p=1\)は当たり前ですし、\((ab)^p=a^pb^p\)のように積を保つことも明らかです。ところがここで問題となるのが和の保存です。\(p\)乗写像が和を保つというのはすなわち\[(a+b)^p=a^p+b^p\]が成立するということですが、上で見た通りこれは標数\(p\)の体だからこそ起こることです。標数\(p\)の体を考えることで、\(p\)乗写像という標準的な写像を体論の中で扱うことができてとても嬉しいわけです。
そしてさらに、体論においては準同型の性質(存在や個数など)が、とても重要な役割を果たします。例えばガロアの基本定理は、”自己準同型”と”中間体”の関係についての定理です。
このように、体の構造を調べる上で不可欠な準同型が、標数が\(p\)というだけで自動的に1つ得られるというのはありがたいですね。さらに言うと、フロベニウス写像は実はただの準同型ではなく、非常に有用な写像で各方面に応用も多いようです(専門外なので詳しいことは分かりませんが……)。
そういった理由で大事な写像だということで、このように名前が付けられているということです。
最後に
フロベニウス写像の定義を簡単に紹介しました。この写像は写像そのものがどうこうというものでなく、体論や代数幾何といった分野での使われ方の方が重要ではないかと思います。なので本記事では定義くらいしか紹介しませんでしたが、他記事では体論における役割について解説していこうと考えています。
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