本記事では分離多項式の定義と、その同値な言い換えについて解説します。
定義
定義は以下の通りです。
を体とし、をその代数閉包とする。多項式がにおいて重根を持たない、すなわちと分解したときが成立するとき、は分離多項式あるいは分離的であるという。
の場合に少し例を見てみましょう。
分離多項式の例
非分離多項式の例
このように、多項式が分離的かどうかを定義通り確認するには因数分解する必要があるのですが、一般の環上だとなかなか大変です。なので分離性を判定できる性質があればとても嬉しいですね。
性質1
実は次のような性質が成り立ちます。
を体としとすると、以下は同値。ここではの形式微分である。
(証明)
(1)(2) 対偶を示す。とが互いに素でないとすると、とをともに割り切る一次以上の多項式が存在する。の根を一つ取りとおくと、はの根でもある:ここでがの重根でないと仮定する。するとと表したとき、となる。ここで形式微分のライプニッツ則よりが成立するので、これにを代入することでとなるが、これはがの根であることに矛盾。従ってはの重根であり、は分離多項式ではない。
(1)(2)とが互いに素であるとすると、あるが存在し、となる(ベズーの等式)。ここでに重根が存在したと仮定し、それをとおくと、はと表せる。形式微分のライプニッツ則より、が成立するので、これにを代入することでを得る。よって上の等式からとなるがこれは矛盾である。従ってに重根は存在せず、は分離多項式である。
(証明終)
性質2
既約多項式についてはさらに良い性質があります。
を体とし、をで既約な多項式とする。このとき以下は同値
(証明)
(1)(2)上の性質1から、とは互いに素でない。従ってこれらをともに割り切る素元(すなわち既約多項式)が存在する。いまは既約なのではの単元倍、すなわち定数倍であることが分かる。よってなどとおくととなり、がで割り切れることが分かる。よってと仮定するととなるが、形式微分の定義から明らかになので矛盾。従ってである。
(1)(2)とするととは互いに素とはなり得ないので性質1からは分離多項式である。
(2)(3)とおく。より、に対しが成立する。ここでの標数をと仮定すると、に対しとなり、となるが、これはが既約多項式であることに矛盾。従っては正標数であり、その標数をとおく。と互いに素なに対しては、からが従うので結局となり得るはの倍数のみ。従ってはと表せる。よってとおくと、が成立する。この等式から、が可約だと仮定するとも可約となり矛盾するので、は既約。もしが分離的でないなら、上で示したようにとなるので、同様の操作を行い、なる既約多項式を取ることができる。これを繰り返すと、と、次数が真に減少していくので、この操作が無限に繰り返されることはなく、必ず有限回で止まる。よってあるが存在し、は既約な分離多項式となり、が成立する。
(2)(3)よりOK
(証明終)
(1)と(3)から、既約な分離多項式は正標数の場合にしか存在しないことが分かります。このことからすぐに、標数0の体は完全体であることが従います。このあたりのことも今後紹介予定です。
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