完全体

本記事では完全体の定義と、その同値な言い換え、具体例について解説します。体拡大に関してすこぶるよい振る舞いをする体で、とても重要な存在なのでしっかり把握しておきましょう!

定義

定義は以下の通りです。

\(K\)を体とする。その任意の代数拡大\(L/K\)が、必ず分離拡大となるとき\(K\)は完全体であるという。

代数拡大が勝手に分離拡大になってくれるということで、とてもありがたい存在です。

……が、当然気になるのが“そんな都合のいい体が存在するのか”です。存在しえないものに名前を付けても仕方ありませんからね。

特徴づけ

ありがたいことに、以下のような同値な言い換えによって完全体の存在は保証されます。

体 \(K\) に対し、以下は同値。\begin{align}(1)\, &Kは完全体\\[5pt](2)\, &\mathrm{ch}K=0,\, または\\&\mathrm{ch}K=p>0かつフロベニウス写像が全射\end{align}

\(\text{ch}\)は標数です。

例えば標数\(0\)の体(\(\mathbb{Q},\mathbb{R}\)など)は全て完全体だということです。思ったよりたくさんありそうですね。

フロベニウス写像については以下の記事で紹介しています。簡単に言うと\(p\)乗する自己準同型です。

体の間の環準同型は自動的に単射となるので、(2)の後半は”フロベニウス写像が同型“といっても同じことですね。

証明

とりあえず証明します。後半では分離多項式の特徴づけを用います。詳しくは以下の記事で解説しています。

(証明)
\((1)\Rightarrow(2)\)対偶を示す。つまり、\(K\)が標数\(p\)の体で、フロベニウス写像\[F:K\to K\;;\;a\mapsto a^p\]が全射でないとき、\(K\)は完全体ではないことを示す。\[a\in K\backslash \text{Im}F\]とする。ここで\(K\)係数多項式\[f(X):=X^p-a\in K[X]\]を考える。\(f(X)\)の根のひとつを\(\alpha\in \overline K\)とすると、\[f(X)=X^p-a=X^p-\alpha^p=(X-\alpha)^p\]となる。ここで\(\alpha\)の\(K\)上の最小多項式\(f_{\alpha}\)を考えると、これは\(f(X)\)を割り切るので\[f_{\alpha}=(X-\alpha)^n\quad(n\leq p)\]と表せる。ここで\(n<p\)と仮定して矛盾を導く。まず\begin{align}f_{\alpha}&=(X-\alpha)^n\\&=X^n-n\alpha X^{n-1}+\cdots\in K[X]\end{align}より、\(n\alpha\in K\)となる。いま仮定より\(n\)は\(p\)と互いに素なので、これから\(\alpha\in K\)が従う。しかし\(a\)の取り方から\(f(X)\)は\(K\)に根を持たないはずなので、これは矛盾である。従って\(\alpha\)の\(K\)上の最小多項式は\[(X-\alpha)^p\]であり、これは\(\alpha\)を重根にもつので、分離多項式ではない。よって\(\alpha\)は\(K\)上分離的でなく、特に代数拡大\(K(\alpha)/K\)は分離拡大ではない。分離拡大でない代数拡大が存在するということは、\(K\)が完全体ではないということである。

\((1)\Leftarrow(2)\)こちらも対偶を示すため、\(K\)は完全体でないとする。このとき完全体の定義から、分離拡大でない代数拡大\(L/K\)が存在する。\(K\)上分離的でない元\(a\in L\backslash K\)を取り、\(a\)の\(K\)上の最小多項式を\(f(X)\in K[X]\)とする。
このとき\(f(X)\)は分離的でない既約多項式ということなので既約多項式に関する性質から、\(\text{ch}K=p>0\)かつ、ある既約分離多項式\(g(X)\in K[X]\)と\(r\geq1\)が存在し\[f(X)=g(X^{p^r})\]となる。\[g(X)=X^n+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_0\quad(a_i\in K)\]と表す。ここでフロベニウス写像\(F\)が全射だと仮定すると、その\(r\)回合成\[F^r:K\to K\;;\;a\mapsto a^{p^r}\]もまた全射となる。すると各\(a_i\)に対しある\(b_i\in K\)が存在し、\[a_i=F^r(b_i)=b_i^{p^r}\]となる。このとき、\(f(X)=g(X^{p^r})\)より\begin{align}f(X)&=g(X^{p^r})\\[5pt]&=X^{np^r}+b_{n-1}^{p^r}X^{(n-1)p^r}+\cdots+b_0^{p^r}\\[5pt]&=(X^n)^{p^r}+(b_{n-1}X^{n-1})^{p^r}+\cdots+b_0^{p^r}\\[5pt]&=(X^n+b_{n-1}X^{n-1}+\cdots+b_0)^{p^r}\end{align}となるが、いま\(r\geq1\)なのでこれは\(f(X)\)が既約であることに矛盾。よってフロベニウス写像は全射ではない。

(証明終)

いま示した特徴付けから、標数\(0\)の体は完全体だということが分かりました。他にも直ちに完全体となることが分かる体があります。

有限体は完全体である

(証明)\(K\)を有限体とすると、\(\text{ch}K>0\)である。フロベニウス写像\(K\to K\)は単射であり、\(K\)が有限集合であることからこれは全射にもなる。

(証明終)

以上から標数\(0\)の\(\mathbb{Q},\mathbb{C}(X)\)や有限体\(\mathbb{F}_p\)などの、すぐに思いつきそうな体は完全体であることが分かりました。逆に言うと非分離拡大を考えたいときは”正標数”の”無限体”を考える必要があるということですね。有理関数体\(\mathbb{F}_p(X)\)などがそれにあたりますね。

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