本記事では体の拡大の分離次数について解説します。
定義
定義は以下の通りです。
\(L/K\)を体の有限次拡大、\(\overline K\)を\(K\)の代数閉包とする。このとき\[[L:K]_s:=|\text{Hom}_K(L,\overline K)|\]を、\(L/K\)の分離次数と呼ぶ。
\(L/K\)が有限次拡大であることから\[|\text{Hom}_K(L,\overline K)|\leq [L:K]<\infty\]が成立するので、分離次数が有限の値であることが保証されます。この不等式については以下の記事で詳しく解説しています。
なぜ分離次数という名前なのかが気になる人がいるかもしれません。確かにぱっと見は分離的な要素がないのですが、実はこの値は分離閉包の拡大次数に一致することが知られています。人によってはこちらで分離次数を定めているので、このような名前になっています。詳しくは以下の記事で解説していますのでこちらも是非ご覧ください。
性質
分離次数に関して基本的な性質は次のようなものです。
\(L/M/K\)を有限次拡大の列としたとき、\[[L:K]_s=[L:M]_s[M:K]_s\]が成立する。
拡大次数と同じような性質ですね。
(証明)代数閉包の性質から、\(f\in \text{Hom}_K(M,\overline K)\)は\(K\)上の同型写像\[\overline f:\overline M\stackrel{\cong}{\longrightarrow} \overline K\]へと拡張できる。このような拡張を各\(f\)に対し1つ取り、固定しておく。また\(M/K\)が有限次拡大であることから\(\overline M= \overline K\)となるので、拡張\(\overline f\)は\(\text{Aut}_K(\overline K)\)の元とみなせる。ここで写像\[\Phi:\text{Hom}_K(M,\overline K)\times\text{Hom}_M(L,\overline K)\to\text{Hom}_K(L,\overline K)\]を\[(f,g)\mapsto \overline f\circ g\]によって定めると、\(\Phi\)は全単射となる。
(証明)逆写像を構成する。\(h\in \text{Hom}_K(L,\overline K)\)に対し、その\(M\)への制限\(h|_M\)は\(\text{Hom}_K(M,\overline K)\)の元となる。よって先と同様にその拡張\[h’:=\overline {h|_M}\in \text{Aut}_K(\overline K)\]が考えられる。ここで合成\[h’^{-1}\circ h:L\to \overline K\]を考えると、任意の\(x\in M\)に対し\begin{align}h’^{-1}\circ h(x)&=h’^{-1} (h(x))\\&=h’^{-1} (h|_M(x))\qquad(x\in Mなので)\\&=h’^{-1}(\overline{h|_M}(x))\qquad(\overline{h|_M}はh|_Mの拡張なので )\\&=h’^{-1}(h'(x))\\&=x\end{align}となり、\[h’^{-1}\circ h\in \text{Hom}_M(L,\overline K)\]となることが分かった。以上より写像\[\Psi:\text{Hom}_K(L,\overline K)\to \text{Hom}_K(M,\overline K)\times\text{Hom}_M(L,\overline K)\]を\[h\mapsto (h|_M,h’^{-1}\circ h)\]で定めることができ、これが\(\Phi\)の逆写像となっている。実際\[\Phi\circ\Psi(h)=\Phi(h|_M,h’^{-1}\circ h)=h’\circ h’^{-1}\circ h=h\]および\begin{align}\Psi\circ\Phi(f,g)&=\Psi(\overline f\circ g)\\&=(\overline f\circ g|_M,(\overline f\circ g)’^{-1}\circ \overline f\circ g)\\&=(\overline f|_M,\overline f^{-1}\circ \overline f\circ g)\qquad(g|_M=\text{id}_Mなので)\\&=(f,g)\end{align}からこれらは互いに逆写像である。(証明終)
この全単射から、両辺の集合の元の個数は等しく、\[[L:K]_s=[L:M]_s[M:K]_s\]が従う。
(証明終)
分離次数は分離拡大の特徴づけに用いられるなど、さまざまな応用があります。詳しくはこちらの記事もご覧ください。
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