本記事ではアルティンの定理について解説します。ガロア理論において最も重要な定理の一つなので、しっかり理解しておきましょう。
主張
主張は以下の通りです。
\(K\)を体、\(G\)を\(\text{Aut}(K)\)の有限部分群とし、\(K^G\)をその固定体とする。このとき\begin{align}[K:K^G]&=|G|\\[5pt]\text{Aut}(K/K^G)&=G\end{align}が成立する。
スッキリとした見た目で綺麗ですね。
記号の確認
上の主張に出てくる記号について、定義を確認しておきましょう。
\(\text{Aut}(K)\)は\(K\)の自己同型全体。\[\text{Aut}(K)=\{f\;|\:f:K\stackrel{\simeq}{\longrightarrow}K\}\]\(K^G\)は\(G\)の元で不変な\(K\)の元全体。\(K\)の部分体となります。\[K^G=\{x\in K\;|\;f(x)=x\;(\forall f\in G)\}\] \(\text{Aut}(K/K^G)\)は\(K\)の自己同型で、\(K^G\)の元を変えないもの全体。\(G\)を部分群として含みます。\[\text{Aut}(K/K^G)=\{f\in \text{Aut}(K)\;|\;f(x)=x\;(\forall x\in K^G)\} \]
補題
証明で用いる補題を用意しておきます。
\(H\)を群とし、\(a\in H\)とする。このとき\(a\)を左から掛ける写像\[\Phi_a:H\to H;h\mapsto ah\]は全単射となる。特に\(H\)が有限群のとき、\[\sum_{h\in H}ah=\sum_{h\in H}h\]が成立する。
当たり前っぽいですが証明しておきましょう。
(証明)\(\:a^{-1}\in H\)が定める写像\(\Phi_{a^{-1}}\)を考えると、\(h\in H\)に対し\[(\Phi_{a}\circ \Phi_{a^{-1}})(h)=\Phi_{a}(a^{-1}h)=aa^{-1}h=h\]となり、\(\Phi_{a}\circ \Phi_{a^{-1}}=\text{id}_H\)が分かる。同様に\(\Phi_{a^{-1}}\circ \Phi_{a}=\text{id}_H\)となるので、これらは互いに逆写像となっている。よって\(\Phi_a\)は全単射。
今の状況に適用すると、以下のようになります。
\(G\)を\(\text{Aut}(K)\)の有限部分群とし、\(n=|G|,G=\{f_1,\dots,f_n\}\)とおく。\(f\in G\)とする。このとき\(f\)を合成する写像\[\Phi_f:G\to G;f_i\mapsto f\circ f_i\]を考えると、これは全単射。特に\[\sum_{i=1}^nf\circ f_i=\sum_{i=1}^nf_i\]が成立する。
証明
複数の不等式をつなげて証明します。
まず\([K:K^G]\leq|G|\)を示す。\(n=|G|\)とおき、\(G=\{f_1,\dots,f_n\}\)とする。デデキントの補題より\[f_1+\cdots+f_n\neq 0\]なので、\[f_1(a)+\cdots+f_n(a)\neq0\]となる\(a\in K^{\times}\)が存在する。ここで\([K:K^G]\geq n+1\)と仮定し矛盾を導く。このとき\(K^G\)上一次独立な\(n+1\)個の元\(b_1,\dots,b_{n+1}\in K\)が取れる。ここで\(n\times(n+1)\)行列\(A\in M_{n,n+1}(K)\)を\[A:=(f_i^{-1}(b_j))_{i,j}\]で定める。\(A\)が定める線型写像\[f_A:K^{n+1}\to K^n\]を考えると、定義域の方が次元が大きいことから\(f_A\)は単射ではない。従って\((x_1,\dots,x_{n+1})\neq(0,\dots,0)\)なる元\[x’={}^t(x’_1,\dots,x’_{n+1})\in \text{ker}f_A\]が存在する。少なくとも一つの成分は\(0\)でないので、それを\(x’_N\quad(1\leq N\leq n+1)\)とする。ここで新たに\[x:=\frac{a}{x’_N}x’\in \text{ker}f_A\]とおくと、\(x\)の第\(N\)成分は\(a\)である。\(f_A(x)=Ax=0\)の第\(i\)成分をみることで\[\sum_{j=1}^{n+1}f_i^{-1}(b_j)x_j=0\quad(i=1,\dots,n)\]を得る。これより\begin{align}\sum_{j=1}^{n+1}b_jf_i(x_j)&=\sum_{j=1}^{n+1}f_i(f_i^{-1}(b_j)x_j)\\&=f\left(\sum_{j=1}^{n+1}f_i^{-1}(b_j)x_j\right)\\&=0\end{align}となる。この式を\(i\)について辺々足し合わすことで\begin{align}0&=\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^{n+1}b_jf_i(x_j)\\&=\sum_{j=1}^{n+1}\left(\sum_{i=1}^nf_i(x_j)\right)b_j\quad(*)\end{align}を得る。ここでさらに\[c_j:=\sum_{i=1}^nf_i(x_j)\]とおく。すると任意の\(f\in G\)に対し、\begin{align}f(c_j)&=f\left(\sum_{i=1}^nf_i(x_j)\right)\\&=\sum_{i=1}^n(f\circ f_i)(x_j)\\&=\sum_{i=1}^nf_i(x_j)\qquad(上の補題から)\\&=c_j\end{align}となるので、\(c_j\in K^G\)となる。さらに\begin{align}c_N&=\sum_{i=1}^nf_i(x_N)\\&=\sum_{i=1}^nf_i(a)\\&\neq0\end{align}となる。以上をまとめると、\((c_1,\dots,c_{n+1})\neq(0,\dots,0)\)なる\(c_j\in K^G\)が存在し、\[\sum_{j=1}^{n+1}c_jb_j=0\]が成立することが示せた。これはすなわち\(b_1,\dots,b_{n+1}\)は\(K^G\)上一次従属ということ。しかしこれらは\(K^G\)一次独立に取っていたので矛盾である。
以上より\([K:K^G]\leq|G|\)が成立する。さらに体の準同型の一般論から、\[|\text{Aut}(K/K^G)|\leq [K:K^G]\]が成立する。また\(G\)は\(\text{Aut}(K/K^G)\)の部分群となるので\[|G|\leq|\text{Aut}(K/K^G)|\]が成立する。これらをすべて繋げて、\[|G|\leq|\text{Aut}(K/K^G)|\leq [K:K^G]\leq|G|\]となるので、すべての不等式で等号が成立し、\begin{align}[K:K^G]&=|G|\\\text{Aut}(K/K^G)&=G\end{align}が従う。
(証明終)
こういう不等式がぐるっと一周するタイプの証明好きです。
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