本記事では分離拡大について解説しています。ガロア理論をやるためにも必要不可欠な概念なので、しっかり把握しておきましょう!
準備
まずは必要な言葉を用意します。
\(K\)を体とし、\(\overline K\)をその代数閉包とする。多項式\(f(X)\in K[X]\)が\(\overline K[X]\)において重根を持たない、すなわち$$f(X)=c(X-c_1)\dots(X-c_n)\:\:\:(c_i\in\overline K)$$と分解したとき$$i\neq j\Rightarrow c_i\neq c_j$$が成立するとき、\(f(X)\)は分離多項式あるいは分離的であるという。
シンプルな定義ですね。\(K=\mathbb{Q}\)の場合に少し例を見てみましょう。
分離多項式の例
- \(X-1\:\:\:\:\) (一次式は分離的)
- \(X^2+1\:\:\) (\((X+i)(X-i)\)と分解できる)
非分離多項式の例
- \(X^2-2X+1\)\(\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:\:((X-1)^2\)と分解できる)
- \(X^3+X^2-X-1\)\(\:\:\:((X+1)^2(X-1)\)と分解できる)
見ての通り、多項式が重根を持つかどうかに名前を付けただけですね。分離多項式かを定義通りチェックしようとすると因数分解する必要があるのですが、一般の環ではなかなか大変そうです。ですがありがたいことに、多項式の分離性には微分を使った言い換えが存在します。以下の記事で詳しく解説しているのでよろしければご覧ください。
定義
では定義をしましょう。
\(L/K\)を代数拡大、\(a\in L\)とする。\(a\)の\(K\)上の最小多項式が分離多項式となるとき、\(a\)は(\(K\)上)分離的という。
また、任意の\(a\in L\)が分離的なとき、拡大\(L/K\)を分離拡大といい、そうでないとき非分離拡大という。
※代数拡大、最小多項式については以下の記事もご覧ください。
分離拡大の例
こちらも少し例を見てみましょう。拡大\(\mathbb{C}/\mathbb{R}\)を考えます。
\(\sqrt{-2}\)の\(\mathbb{R}\)上の最小多項式は\(X^2+2\)です。これは\(\mathbb{C}[X]\)において$$X^2+2=(X-\sqrt{-2})(X+\sqrt{-2})$$と分解できるので、\(\sqrt{-2}\)が\(\mathbb{R}\)上分離的なことが分かります。
一般の複素数\(s+t\sqrt{-1}\)については、\(\mathbb{R}\)上の最小多項式が
\[f(X)=\begin{cases}X-s & (t=0)\\X^2-2sX+s^2+t^2 & (t\neq0)
\end{cases}\]で与えられ、いずれも分離多項式なので拡大\(\mathbb{C}/\mathbb{R}\)は分離拡大となります。
非分離拡大の例
実は標数0の体(\(\mathbb{Q}\text{や}\mathbb{R}\)など)や有限体などのすぐに思いつく類の体は完全体と呼ばれる体で、代数拡大は自動的に分離拡大になってしまうことが知られています。詳しくは以下の記事で解説しています。
なので非分離拡大の例を考えるにはちょっと特殊なシチュエーションを考える必要があります。典型的なものは以下のようなものです。
\(p\)を素数とし、標数\(p\)の有限体\(\mathbb{F}_p\)を考えます。\(\mathbb{F}_p\)上の有理関数体\(\mathbb{F}_p(T)\)と、その部分体\(\mathbb{F}_p(T^p)\)を考えます。このとき、\(T\in \mathbb{F}_p(T)\)の \(\mathbb{F}_p(T^p)\)上の最小多項式は\(X^p-T^p\)となります。
(証明)\(T\)を根に持つモニック多項式なことは明らかなので、既約であることを示せば十分。いま明らかに\(T^p\)は\(\mathbb{F}_p[T^p]\)の素元なので、アイゼンシュタインの既約判定法より\(X^p-T^p\)は\(\mathbb{F}_p(T^p)[X]\)で既約。
(証明終)
しかし、\(\mathbb{F}_p(T)[X]\)においては$$X^p-T^p=(X-T)^p$$と分解できるので、\(X^p-T^p\)は分離多項式ではありません。したがって拡大\(\mathbb{F}_p(T)/\mathbb{F}_p(T^p)\)は非分離拡大となります。
最後に
分離拡大について解説しました。分離拡大はガロア理論や原始元定理をはじめとした良い振る舞いをする拡大なので、随所で顔を出します。しっかりと頭に馴染ませておきましょう!
(ちなみに筆者は原始元定理がとても好きです。)
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